【経営戦略】IT企業(SIer)の現状分析および継続的に成長するための課題/対策

イントロ

 日本のIT企業、特にSIerに関する経営課題および課題解決の対策をまとめております。SIerという事業は発展しないと言われ続けてきましたが、現時点ではDXブームの後押しもあり好調を維持している企業が多いです。ただし、一時的な好調に満足していてはSIerの長期的な発展は期待できませんので、業績が好調なうちに各社戦略を練って海外IT企業に負けない競争力を獲得すべきと考えています。
 本記事ではSIerが置かれている状況を整理したうえで、SIerの経営課題および対策をまとめていますのでぜひ参考にしてみて下さい。

SIerが置かれている状況

1. PEST分析

日本のSIerに共通する外部環境の状況をPEST分析という形で記載しています。コロナや円安などが原因で外部環境が大きく変化している状況に対して、柔軟に変化して適用していくことが必要です。

2. SWOT分析

SIerの事業状況をSWOT分析という形で記載しています。DX関連で売上拡大の機会もありますが、中長期的にはコンサル企業との競争や、クラウドベンダー台頭による成長鈍化の可能性がありますので、早急に対策を練る必要があると認識しています。

SIerの経営課題

SWOT分析にて記載したSIerの課題に関して詳細を記載します。

1. 顧客のビジネス拡大への寄与

多くの企業においてIT投資の重要が高まってきています。さらに言うと従来のような単なる業務効率化ではなく、ビジネス拡大、つまり売上を拡大するためにITを導入したいという顧客が増えてきています。一方で、どのようにITを活用してビジネスイノベーションを創出し、ビジネスを拡大すればよいか顧客も悩んでいる状況ですので、SIerから効果的な提案を行い、顧客と新しい価値を共創していく必要があると考えています。

2. 市場ニーズの複雑化・急速な変化への対応力

エンドユーザのニーズが複雑化しており、ニーズ変化の速度も早くなってきております。従来のウォーターフォール型の開発だけでは市場の変化に対応することができないため、アジャイル開発のような手法を積極的に取り入れ、市場にリリースしてエンドユーザの反応を見ながら改善を加えていくような対応が求められています。

3. IT人材、特にDXを推進できる人材の不足

IT人材不足が顕著であり、短期的、中長期的にも十分な人材を日本国内で確保するのは難しいという予測があります。これまでSIerは労働集約型でIT人材を多く投入することで大規模システムを開発して売上を伸ばしてきましたが、これからは人材が不足している状ビジネスイノベーションを創出あるにもかかわらず、これまで以上の価値を創出していくことが求められています。また、SIerにとっては確実なシステム開発、安定運行が最重要であるため、なるべく実績のある枯れた技術を使う傾向が強です。その結果、DX推進に必要な新しい技術や開発手法に習熟した人材が不足しており、DXを推進できる人材が不足していることも課題となっています。

4. グローバル市場への展開

残念ながら中長期的に見て日本の経済の堅調な成長が見込めないことを見据えると、日本市場の顧客だけを相手にしているのはリスクとなります。海外で売上を伸ばしていくための対策を各社検討する必要があると考えています。M&Aだけに頼るのではなく、日本で積み上げてきた実績および磨き上げた技術を活用し、海外顧客に対して価値を提供していかなければならないと思っております。

経営課題に対する対策

上記の経営課題に対する主な対策を記載します。

1. コンサルティング強化

 ビジネス課題が複雑化している昨今、多くの顧客がビジネスの方向性に悩んでいる状況と認識しています。顧客と話をしていても、ITを活用した売上拡大に向けたコンセプトは掲げているものの、具体的なビジネス、サービス展開を描けていないように思います。そういった顧客のために、ビジネスの方向性を提案し、顧客と一緒に考える伴走型のコンサルティングが有効であると考えています。また、コンサル企業がSIの領域まで事業を拡大してきており、SIerの競合としてコンサル企業を意識せざるを得ない状況になってきています。コンサル企業の下請けに成り下がらないためにもコンサルティング領域のケーパビリティを向上させることが必須です。具体的には下記の対策が有効と考えています。

1.1. 得意な分野からコンサル事業を展開
 まずはコンサルティング機能を有した企業であることを顧客に認識してもらう必要があります。そのためには各社の得意な分野からコンサル事業を展開し、着実に実績をあげていくことが必要です。いきなりビジネス領域でコンサル企業と真っ向勝負するのは分が悪い状況であれば、SIerとしての強みを活かしてテクノロジー分野のコンサルティングから始めていくのが良いと思います。できれば市場拡大が見込まれる領域、例えばデータ分析、AI、セキュリティといった分野の中から技術領域を選定してリソースを投入していくことが効果的だと考えています。

1.2. 既存顧客に対するコンサルティング領域への幅出し
 既存の顧客のビジネス・システムを熟知している強みを活用したコンサルティングも非常に有効です。目の前の業務が忙しくて現状の課題や改善案の提示を積極的にできていない状況があると思いますが、他社よりも優位な位置に立っている状況を活用しないのは大変もったいないです。現場から顧客提案する機会を増やし、既存顧客に対してコンサルティング能力のあるSIerだという印象を植え付けることで、ビジネスパートナーとしての地位を確立することが有効だと考えています。

1.3. コンサル人材確保
 上記内容を推進するために、コンサルティング能力を有した人材を育成、確保することも重要です。社内の共通組織にコンサル部隊を設けたり、別のコンサル会社を立ち上げることで人材を集めるところから始めるのがファーストステップになることが多いかと思います。その上で、コンサル部隊と既存顧客を知り尽くした現場が連携してコンサル業務を実施することで、徐々に現場の組織にもコンサルティングができる人材の育成ができている状態が望ましいです。

2. B to B to X ビジネス強化

顧客のビジネス拡大に貢献するためには、従来のように目の前の顧客を見ているだけでは不十分です。その先の最終的なエンドユーザの顧客体験を変革するようなビジネス/サービスを提案し実現していくことが必要になります。また個々のエンドユーザだけではなく、社会全体をデザインして社会課題を解決するようなビジネス展開に結び付けられるとより良いと考えています。具体的には下記の対策が有効です。

2.1. 顧客を巻き込んだニーズ理解のワークショップ開催
ビジネスの方向性を最終的に判断するのは顧客になります。したがってSIerのひとりよがりな提案ではなく、顧客と一緒に考えるというスタンスが有効だと思っております。ペルソナおよびカスタマージャーニーを作成して、顧客と一緒にエンドユーザ像を捉える活動をワークショップ形式で実施し、ともに売り上げ拡大につながるサービスを考えていくのが効果的です。

2.2. データ分析によるニーズ理解
顧客が有しているエンドユーザに関するデータを活用することで、エンドユーザのニーズを捉えるという手法も有効だと考えています。ただし所有しているデータは顧客のものなので、こちらのデータ活用についてもいかに顧客を巻き込んでいくかが重要になってきます。また、データ分析・活用の分野はまだ発展途上で効果がいまいち見えづらい所がありますので、データ分析基盤を作って終わりではなく、どうやって使っていくのかというところに知恵を絞っていくことが重要です。

2.3. グランドデザインの構想
将来像となるグランドデザインを描き、そこに向けたビジネスを展開するという視点も必要となります。ボトムアップでエンドユーザのニーズを捉える上記の手法とは別の手法であり、新しいエンドユーザのニーズを創出する動きとなります。外資系コンサル会社と比較するとグランドデザインを描くケーパビリティがSIerは弱いと思われていますので、ぜひ社内外に情報発信するなどしてアピールしていくことが有効と考えています。

3. ビジネス/開発アジリティの強化

エンドユーザのニーズやビジネス課題が複雑化していることに加え、変化の速度も早くなっています。従来のように長い期間かけて要件、設計を固めてから開発するというやり方では、市場の変化に追従することはできません。提案/開発アジリティを上げることで、顧客のビジネスアジリティ向上に寄与することが求められてきています。具体的な対策を下記に記載します。

3.1. 意思決定スピードの向上
従来のウォーターフォール開発のルール、仕組みが定着している企業が多いため、DXのようなスピードおよび改善が必要な分野においても従来のルールが適用されているために意思決定のスピードが遅くなっています。DX領域については独自のルールを設けて意思決定のハードルを下げ、特性に合ったプロジェクト推進をすると良いと考えています。ただし極力リスクを避けたいというのが経営層の頭にありますので、スモールスタートさせてうまくいきそうだったら拡大させていくといったやり方を取ると良いでしょう。また繰り返しになりますが最終的な意思決定権は顧客にありますので、できれば顧客の懐に入り込んで膝を突き合わせながら開発を進められる体制をとることが有効です。

4. サービス化・オファリング化推進

これまでのように個別の顧客に対してシステムインテグレーションを続けていくだけでは長期的な成長につながらないですので、サービス化、オファリング化による売り上げ拡大を推進していくべきであり、昔から言われていることかと思います。すでに成功している既存の型を横展開することで、市場の変化に迅速に対応するための早期リリース、人手不足の解消につながっていくと考えています。またグローバルにおいてはシステムインテグレーション事業の比率が日本に比べて小さく勝負しづらいので、日本で洗練させたサービスやオファリングを海外に輸出する戦略が現実的かと思います。

4.1. サービス創出促進の仕組み構築
現場としては目の前の顧客に対して価値を提供することで手いっぱいであるため、他の顧客に展開できるサービス創出については二の次になってしまう組織が多いのではないかと思います。そうならないためには、サービス化推進のための組織間意識合わせを定期的に行い、上位層含めてサービス化へのロードマップを描くことが効果的です。各組織からサービスとして昇華できそうな種を持ち寄り、フィージビリティがあるものについてはシステム導入の検討段階から他の顧客に対する展開を見据えた計画を立案しコミットさせることが必要と考えています。

4.2. アーリーアダプタとの共創
サービスを横展開していくためには、まずはアーリーアダプタをつかまえて成功事例を作り上げることが重要です。たとえ利益がほとんど出ない状況だとしても戦略投資としてとらえ、ファースト案件から得られたノウハウを形として詳細に残すことで、次以降の案件のスムーズな開発につなげることが必要です。既に信頼関係が構築できている既存顧客との関係性を活かし、アーリーアダプタ獲得に力を入れることが効果的だと思います。

5. 標準化・自動化による人手の削減 ⇒ DX人材へのリスキリング

DXビジネスを推進するために最も重要なのは、やはりDXを推進できる人材の確保であると認識しています。中途採用を強化して外部から人材を調達することも有効だとは思いますが、既存顧客の業務、システムを熟知している社員を活用することのほうが重要であると考えています。ただし既存社員は基幹システムの開発、運用業務を抱えており負担が大きい状況であるため、いかに既存社員の負担を減らしてDX人材としてリスキリングさせるかという点を考えないといけないと思っています。

5.1. 徹底的な標準化の適用
個別に作りこむことを極力避け、標準化されたテンプレートを使用することを組織としてルール化しましょう。フレームワークであったり基盤構築のIaC(Infrastructure as a Code)テンプレートといったものを最大限利用し、基本的にはイチから作りこむということを辞めさせ、標準化されたものを活用することを評価すべきです。そのためには各組織で標準化できたアウトプットを社内に幅広く展開できるような情報共有の仕組みがあると良いでしょう。また、システム開発向けの標準化成果物だけでなく、提案書や障害報告書のテンプレートを精査し、決まったフォーマットおよび構成で作成させることをルール化することで、現場の生産性が大きく上がりますのでぜひ採用してみて下さい。

5.2. 本務以外の業務への参画
ひとつの業務だけをやり続けると視野が狭くなり、技術の幅も広がっていかないので、希望する社員に対して本務以外の業務への参画を促すと良いです。特にレガシーなシステムを扱っている担当の人材は自身のキャリアプランに不安を持っている人が多いです。そういった社員に別の活躍の機会、およびリスキリングの機会を提供することで社員のモチベーションが上がり、離職率の低下を抑止できる可能性がありますので、ぜひ適用してみることをお勧めします。

まとめ

ここまで読んでいただきありがとうございました。世間ではSIerの評価が低く捉えられていますが、社会影響の大きい重要なシステムの命運を担っている価値の高い企業だと思っております。世間の声をはねのけてSIerのさらなる成長に少しでも貢献していけたらと考えていますので、引き続きよろしくお願いいたします。

参考資料

今回の記事を記載するにあたり参考にした資料を記載します。

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